炎上しているプロジェクトに、途中から呼ばれる。
PMを長くやっていると、そういう役回りが増えてきます。曖昧なまま走り出したプロジェクトや、すでに火のついたプロジェクトの立て直しは、私が25年の中で特に多く向き合ってきた領域です。
炎上している現場には、たいてい共通する空気があります。誰もが疲れていて、誰もが少しずつ苛立っていて、何が本当の問題なのか、誰にもはっきりわかっていない。
この記事では、そうした炎上プロジェクトに途中から入ったとき、私が何から手をつけ、どう収束させていくかをまとめます。
炎上の正体は、技術より「人」の混乱
最初に押さえておきたいのは、炎上の原因の多くは技術不足ではない、ということです。
私がこれまで見てきた炎上の多くは、
- 責任の所在が曖昧
- 誰も判断しない
- 関係者間の信頼が崩れている
- 恐れ、怒り、焦りが判断を曇らせている
といった、人と組織の混乱から生まれていました。技術的な問題は、その結果として表面化しているにすぎないことが多い。
だから、立て直しも技術の話から入ると、うまくいきません。
最初にやること1:ゴールを「全員が収束した状態」に置く
炎上の現場では、関係者それぞれが違うゴールを見ています。
- 顧客は「約束どおりのものを、約束どおりに」
- 開発チームは「これ以上の追加を止めたい」
- 営業は「関係を壊したくない」
- 経営は「赤字を止めたい」
どれも正しい。そして、どれか一つだけを満たしても、炎上は終わりません。
私が最初に据えるゴールは、顧客・システム側・営業・経営、すべての関係者が「これで収束した」と言える状態です。そこから逆算して、できることを一つずつ積み上げていく。
派手な一手はありません。立て直しは、コツコツの積み上げです。
最初にやること2:影響の大きいところ、手をつけられるところから
全体像が見えないうちは、どこから手をつけるのが一番効率がいいかは、すぐにはわかりません。
だから迷ったら、
- 全体への影響が大きいところ
- いますぐ手をつけられるところ
この2つが重なる場所から始めます。完璧な優先順位を決めるまで待つより、動きながら見えてくるものの方が多いからです。
最初の数日は、課題をとにかく一覧に出すことに集中します。課題は、見える化した時点で半分終わっています。見えない作業は、無いことにされて、最後に爆発するからです。
最初にやること3:情報の流れを開く
炎上している現場では、たいてい情報が詰まっています。
悪い知らせが上がってこない。チーム間で決まったことが共有されていない。誰が何を決めたのか、誰も覚えていない。
立て直しで効くのは、PM個人の判断の鋭さよりも、
- 情報の流れを開くこと
- 決める人を明確にすること
- 課題を、他の人が動ける形に整理すること
です。
悪い報告に「ありがとう」と言う
情報の流れを開くために、私が徹底していることがあります。ミスや悪い知らせを報告してきたメンバーに、最初に言う言葉は「ありがとう」です。
責めた瞬間、次から報告は来なくなります。隠すことが始まり、また次の火種が水面下に潜る。炎上している現場ほど、この悪循環にはまっています。
責めるべきは人ではなく、それを許した仕組みです。報告してくれたことへの感謝が、チームで解決する空気をつくります。
最初にやること4:ルールは極限までシンプルにする
炎上案件には、立て直しのために多くの人が投入されてきます。
統制は取りたい。でも、ルールが多いと、新しく入ってきた人ほど動けません。何を守ればいいのかわからないまま、ルール違反だけが増えていく。
そこで私は、統制の仕組みを次のように組みます。
| 管理チームが持つもの | 各チームに委ねるもの |
|---|---|
| 全体の大きな流れ(マイルストーン・優先順位) | チーム内の進め方・作業の割り振り |
| チーム間の調整内容の把握と記録 | チーム内で完結する判断 |
| 全体計画への影響チェック | 日々の細かな進捗管理 |
ポイントは、チーム間の調整内容は必ず管理チームが把握して記録することです。チーム同士で決めたことが全体計画にどう影響するかを確認し、後から「言った・言わない」にならないよう残しておく。
ルールは守れる数だけ作る。守れない規約は、無いのと同じです。
全体の流れを確認する場としての定例の組み立て方は、進捗会議のコツにまとめています。
最初にやること5:消えかけた心に、火を灯す
炎上の現場では、メンバーのメンタルもモチベーションも、まず間違いなく落ちています。
ここで、リカバリーを担う人間の大事な役割があります。それは、自分自身が熱を発信することです。
一貫して動く姿を見せる
私が実際にやっているのは、とてもシンプルなことです。
何とかこの炎上を鎮めるために、自分が一貫して、一生懸命に動いている姿を見せ続ける。誰かに協力をお願いするときは、「困っている。少しでも手を貸してほしい」という想いを、そのまま伝える。
それを、何度でも繰り返します。
正直に言えば、これは自分自身もつらい。でも、本気で動く人がひとり、ふたりと増えてくると、不思議と自分のモチベーションも上がってきて、だんだん楽しくなってくる。火は、伝染するのです。
ただし、これは私のようなタイプに向いたやり方なのかもしれません。熱で引っ張るのが合わない人は、別の形で「この人は本気だ」と伝わる方法を探すのがいいと思います。
内心ボロボロでも、灯台であり続ける
辛い局面でも、リーダーは前を向いていなければなりません。内心がどれだけ疲れていても、メンバーに「この先は良くなる」と信じてもらうこと。それが導く者の役割です。
弱さを見せる場所は、別に持っておけばいい。現場では、最後まで灯台であり続ける。
立て直しで「やってはいけない」こと
犯人探しをする
「誰のせいでこうなったのか」を追及したくなる気持ちはわかります。でも、他責は思考停止です。立て直しに必要なのは、原因を分析して構造を変えることであって、誰かを裁くことではありません。
すべてを自分で抱え込む
もうひとつ、私自身が痛い目を見たのがこれです。
信頼に応えようとして、ひとりで背負い込む。燃えている現場ほど、それが「責任感」に見えてしまいます。でも、ひとりで抱えた進捗は、倒れた瞬間にゼロになります。
燃え尽きるまで頑張ることで、何かが許されるわけではありません。このことは「燃え尽きることで、許されると思っていた」に詳しく書きました。
立て直しのゴールは「自分がいなくても回る」こと
炎上が落ち着いてきたら、最後にもうひとつやることがあります。
それは、自分がいなくても回る状態をつくることです。
決める人が決まっていて、情報が流れていて、課題が誰でも動ける形で整理されている。そこまで整えて、はじめて立て直しは終わります。リカバリー担当がずっと居続けないと回らない現場は、まだ火が消えていないのと同じです。
この考え方は「私が抜けたあと、その現場は回っているか」にまとめています。
まとめ:炎上の立て直しで最初にやる5つのこと
- ゴールを「全員が収束した状態」に置く
- 影響の大きいところ、手をつけられるところから始める
- 情報の流れを開く(悪い報告に「ありがとう」)
- ルールは極限までシンプルにし、調整内容だけは記録する
- 自分が熱を発信し、火を伝染させる
炎上は、混沌そのものです。でも、混沌には必ずほどける順番があります。全体を見渡して、一手ずつ打っていけば、どこかで流れが変わる瞬間が来ます。
混沌に、軸をつくる。立て直しとは、その地道な繰り返しです。
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西村 幸一 / Open Field
IT業界25年。PM支援・炎上案件のリカバリー・要件定義。
X:@kn_246
